うちの鬼嫁は圧倒的に健康を大切にする。
それはもう健康をかなり大切にしていて、
旦那である私への配慮もハンパない。
どれくらいハンパないかと言うと
「先に死んだら殺す」
という宣告を私は受けている。
先に死んだら殺されるらしい。
つまり人は二度死ぬ。
一見ただの暴言と思いきや、未だに解明されていない生命の神秘、魂の輪廻について思考を巡らされる一言に、驚かされる。
仮にもし私が先に死んだ場合、
死んだと思ったら妻にもう一度殺される。
これは言い換えると、うちの鬼嫁の
圧倒的でハンパない愛情の裏返しであり
「あなたが先に死ぬようなことは許さない、そんなことがあってはならない」
という壮大な愛のコンツェルト(協奏曲)だ。
どのくらい私への健康を配慮しているかと言うと、
まず私は家では基本的にビールは飲めない。
サラリーマンたるもの満員電車という
殺伐とした定額制のアトラクションに毎朝揺られ、
朝から晩まで社会の荒波を渡りきり
クタクタになって帰って来たならば
ビールの1本や2本は飲みたいものである。
帰りのスーパーで
今日はスーパードライか、
いや、プレモル気分ではないか?
などとやっているのである。
私は帰宅と同時に
「今日はけっこう疲れたな。」と
あたかも身体が熱烈にビールを欲していることを極めてナチュラルに伝えている。
だが、最早あなたもお気づきの通り
そのような小細工はうちの鬼嫁には通用しない。
私が驚くほどの自然な所作で
プシュッ
と缶を開けたにも関わらず、
「誰に許可取ってんの?」
許可制である。
気づけば許可制となっていた。
家庭内の最高意思決定機関であるエリカに
「ビール飲酒許諾証明書」を発行されることで初めて
平和に黄金の液体を味わうことができる。
エリカの中では
酒 = 毒 なのだ。
酒?
エリカ「 」
(HUNTER x HUNTER 25巻より)
結局、
「まあ、飲めば?知らんけど」
と、最後は突き放される。
(尚、タバコに関してはこの程度では済まない。)
そして、私の食生活に少しでも乱れが垣間みえると、
うちの鬼嫁は全身全霊を持って
まるでかつて浦飯幽助を窮地に追い詰めた
戸愚呂(弟)のように、
私に命の儚さと尊さを思い知らしめる。
(幽遊白書 12巻より)
「お前もしかしてまだ
自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
そう、戸愚呂と全く同じセリフで
お前ももう20代ではない、
いつまでも若いと思うな。
という、極めて現実的なメッセージを
直接的にお届けしてくれる。
表面上では手厳しい仕打ちに見えるかもしれないが、私は心の奥底の世界では寵愛を受けているはずである。
ここに関しては感謝を申し上げるしかない。
愛している。
ただし、うちの鬼嫁は私が健康を保てていることが「自分のおかげ」であることを
かかさず伝えてくる。定期的に。
NHKの集金のように。
ブリーチという漫画に、人の記憶を改変して"全て自分のおかげ"とする月島さんというキャラがいる。
うちのエリカは正に月島さん同様"命の恩人"として強烈にアピールを行なってくる。
そして当然、
「ありがとう、えりちゃんのおかげだよ」
そう答える以外に選択肢はない。
「いや、自分なりにけっこう気を遣ってるし、
自分でけっこう頑張ってるんすヨ。自分なりに。」
とかなんとか言っちゃったらだめ。
いずれにしても、
うちの鬼嫁ハンパねえ。